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相続人に認知症の人がいるとき、遺産分割協議はどう進める?

相続人に認知症の人がいても、診断名だけで遺産分割ができないと決まるわけではありません。協議内容を理解して判断できるかを確認し、必要に応じて成年後見制度を利用します。家族が本人に代わって署名せず、適法に協議へ参加できる体制を先に整えることが大切です。

親族が亡くなり、認知症の母や父も相続人になったとき、「家族全員が納得しているから、代わりに押印してよいのでは」と迷うことがあります。しかし、財産の分け方を決める協議では、本人の意思と利益を守る手続が欠かせません。この記事では、判断能力の確認、後見・保佐・補助の違い、利益相反、申立て前に準備する資料を整理します。単なる協議への非協力とは分けて考えましょう。

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目次

まず確認したいのは診断名より協議を理解する力

家族の人形と天秤

遺産分割協議では、誰の財産を、誰が、どのように取得するかを理解して意思を示す必要があります。認知症の診断を受けていることと、すべての法律行為について判断できないことは同じではありません。逆に、日常の会話ができるからといって、不動産や代償金を含む複雑な案まで理解できると判断するのも危険です。

民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力がなかった法律行為を無効としています。診断の時期、協議当時の状態、説明内容などが問題になるため、家族の印象だけで結論を出さず、医師の診断や生活状況の資料をもとに専門家へ相談してください。本人に説明する機会や意思を確認する工夫も大切です。

家族の同意や本人名義の印鑑で代理権は生まれない

配偶者や子どもであるだけでは、本人の代理権は当然にはありません。本人が内容を理解できない状態で署名を手伝ったり、家族が本人名義で押印したりしても、それだけで有効な協議にはできません。実印や印鑑登録証明書がそろっていることと、法律上の代理資格があることは別の問題です。

すでに委任状がある場合も、作成時の判断能力、委任した事項、代理人と本人の利益が対立しないかを確認します。書面があるから後見制度は不要と決めつけず、まず原本と作成経緯を整理しましょう。まだ合意していない段階であれば、安易に日付を入れたり押印したりせず、確認が必要な点を明らかにします。

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本記事は、2026年10月30日時点で施行されている成年後見制度に基づいて説明しています。成年後見制度を見直す改正法(令和8年法律第45号)は2026年6月24日に公布され、見直し部分は公布日から2年6か月を超えない範囲内の政令で定める日に施行されます。

施行前に後見・保佐の審判を受けた方には経過措置があり、原則として従前の制度が適用される一方、新制度への移行等のための手続も設けられています。すでに利用中の方も一律に新制度へ切り替わるわけではありません。制度を利用する際は、法務省の改正法の案内や家庭裁判所で、施行状況とご自身に適用される手続を確認してください。

後見・保佐・補助で協議への関わり方が変わる

家族の人形と財産を示すコイン

法定後見には、判断能力の程度に応じた後見・保佐・補助があります。後見が開始されると、成年後見人は財産に関する法律行為について本人を代表します。ただし、本人の意思を尊重し、生活や財産を守る立場です。他の相続人の希望を実現するために、本人の取り分を自由に減らせる制度ではありません。

保佐では、遺産分割は原則として保佐人の同意を要する行為です。保佐人が本人に代わって協議するには、別途その事項について代理権が与えられているか確認が必要です。補助も、どの行為について同意権や代理権が付与されたかによって扱いが異なります。後見・保佐・補助を一括して同じ代理制度として扱わないでください。

選任済みなら審判書と代理権の範囲を確認する

すでに後見人等がいる場合は、選任された人の氏名だけでなく、審判書や登記事項証明書で権限を確認します。保佐人・補助人に代理権が付与されているときは、その範囲に今回の遺産分割が含まれているかが重要です。金融機関や登記の提出先にも、必要書類を事前に確認しておくと手戻りを減らせます。

任意後見契約がある場合も、契約書の存在だけで任意後見人として活動を始められるとは限りません。任意後見監督人の選任など、契約が効力を生じるための手続と代理権の範囲を確認します。利用している制度と権限の根拠を区別して相談することが、適切な進行の第一歩です。

以下の動画では、遺産分割の基本的な準備について解説しています。成年後見や不在者財産管理人の選任・権限を説明する動画ではありません。遺言の有効性や対象範囲によって、協議が必要かどうかは異なります。

【関連動画】遺産分割協議のやり方 協議が成立しない場合どうなるか【相続のための弁護士チャンネル】

後見人も相続人なら利益相反に注意する

協議書案の準備を表す書類と万年筆

例えば、本人と、その成年後見人である子どもが、同じ被相続人の共同相続人になる場合です。一方の取得分を増やすと他方の取得分が減るため、利益が対立します。親族だから公平に扱えるという説明だけでは足りず、本人を代理する人を別に整える必要があります。

後見人と本人の利益が相反する行為では、原則として特別代理人の選任を家庭裁判所へ申し立てます。ただし、成年後見監督人がいる場合などは取扱いが異なります。保佐・補助の場合も臨時保佐人・臨時補助人などの検討が必要になるため、現在の選任状況と協議の当事者を裁判所や専門家に伝えて確認します。

本人の取得内容と将来の生活費を資料で示す

協議書案には、本人が受け取る財産、評価額、代償金の有無や支払条件を具体的に記載します。本人の介護費や生活費に充てる資金がどう確保されるかも検討事項です。不動産の名義だけを取得して現金が不足する案と、預金を確保する案では、生活への影響が異なるためです。

親族間で合意ができていても、本人に不利益な内容であればそのまま進められるとは限りません。特別代理人を選任すればどのような分割案も認められる、という制度ではありません。財産資料と評価の根拠をそろえ、他の相続人の都合とは分けて本人の利益を説明できるようにします。

家庭裁判所への申立て前に準備すること

手続書類と印鑑

後見開始等は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。本人、配偶者、四親等内の親族など、申立てができる人は法律で定められています。本人の戸籍や住民票、診断書、財産に関する資料などを準備し、必要書類の最新版は申立先の案内で確認しましょう。

候補者として親族を挙げることはできますが、希望した人が必ず選任されるわけではありません。本人の状況や財産、予定する事務に応じて、裁判所が適切な人を選びます。医師の診断や追加の調査、鑑定が必要になることもあるため、選任までの期間を一律に見込んで協議の日程を確定しないことが大切です。

費用と継続的な財産管理まで見通す

申立てには収入印紙や郵便料、登記関係の費用などが必要です。診断書・鑑定の費用、専門家へ依頼する費用、選任後の報酬は区別して考えます。総額は事案によって異なり、専門職の後見人等の報酬についても裁判所の判断が関わるため、固定額で済むと考えないでください。

成年後見制度は、遺産分割が終われば当然に終了するものではありません。本人の判断能力が回復するなどの事情がなければ、財産管理や裁判所への報告がその後も続きます。申立ての取下げにも裁判所の許可が必要です。協議を一度終わらせるためだけの手続と考えず、今後の支援も含めて検討しましょう。

すでに署名した場合や期限が迫る場合の相談

家族の人形と時間を表す時計

本人の判断能力に疑問があるまま協議書を作成した場合は、書面の効力や名義変更の状況を個別に確認します。後から後見人が選任されたことだけで、過去の協議が自動的に有効になるとはいえません。一方で、診断名だけを理由に必ず無効と決めることも避け、協議当時の事情を整理してください。

相続税の申告や登記など、協議とは別の期限が関係することがあります。後見人の選任待ちを理由にすべての期限が延びるわけではありません。何の手続がいつまでに必要か、暫定的にできる対応があるかを、それぞれの専門家や窓口へ確認することが必要です。

相談時には権限と協議の経過を一緒に伝える

相談には、相続関係が分かる戸籍、遺言書、財産目録、本人の診断書や生活状況のメモ、後見等の審判書、協議書案を持参します。すでに署名した場合は、その日付、説明した人、同席者、本人の反応も分かる範囲で記録します。記憶を補うために資料を集め、事実と推測を分けて伝えましょう。

弁護士へは、本人のためにどのような支援が必要か、他の相続人とどこで意見が違うかを説明してください。家族への連絡、権限確認、分割案の検討を分けると、次に取る行動を整理しやすくなります。結論を急いで署名するより、本人が適切に協議へ参加できる体制を整えることを優先します。

専門家コメント|ニューステージ代表弁護士 下元高文

相続の準備をワンストップでサポートします

認知症の方が相続人となる場合、家族の合意を急ぐ前に、本人の理解力と代理する人の権限を確認することが大切です。診断書や協議書案、財産資料をそろえ、後見人自身も相続人となる場合は利益相反の確認も必要です。署名済みの書面がある場合も、作成当時の事情を整理して早めに相談しましょう。

よくある質問(FAQ)

認知症と診断されたら遺産分割は必ずできませんか?

診断名だけでは決まりません。協議の内容を理解して判断できるか、協議当時の状態を確認します。判断能力が十分でない場合は、後見等の制度や代理権の確認が必要です。

家族が本人の代わりに押印してもよいですか?

家族というだけでは代理権はありません。本人の意思能力や代理権を確認しないまま、本人名義で署名・押印することは避けてください。実印を管理していることと代理資格は別です。

成年後見人が同じ相続の相続人でも代理できますか?

利益相反が問題になるため、そのまま代理できるとは限りません。特別代理人の選任や成年後見監督人の有無などを確認し、本人を適切に代理する体制を整えます。

遺産分割が終わると成年後見も終了しますか?

分割が終わっただけでは終了しません。本人の判断能力が回復するなどの事情がなければ、財産管理や裁判所への報告が続きます。利用開始前に継続的な支援まで検討してください。

まとめ

認知症の相続人がいるときは、診断名だけで判断せず、本人の意思能力と協議に参加する権限を確認します。後見・保佐・補助の違い、利益相反、申立て後も続く財産管理を踏まえて進めましょう。署名や名義変更を急がず、資料をそろえて相談することが本人の利益を守ることにつながります。

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